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ぽんきち
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厳しい冬の始まりのある日、突如、冬眠しそびれた羆(ヒグマ)が村を襲った。人は羆を斃すことができるのか。
日本史上、最悪の獣害を描く、迫真の記録小説。
舞台は大正時代、北海道天塩山麓の小村、六線沢。前に入植した土地を蝗の害で追われた東北からの移民たちは、この土地に住み着けるかどうか、ぎりぎりの貧しい暮らしを送っていた。厳しい冬の始まりのある日、突如、冬眠しそびれた羆(ヒグマ)が村を襲った。


無残な遺体。恐れ惑う村人達。銃を持って助けに入った近隣の人々も、羆の強大さに恐れをなし、頼りにならない。最終的に、飲んだくれで嫌われ者の羆打ちの老人が迎え入れられる。人は羆を斃すことができるのか。


「羆」は、愛嬌のある「熊」ではない。情を通わせることなど不可能な、強大で恐ろしいケダモノだ。羆が人を襲う、かなり残虐なシーンも出てくるので、万人におすすめとはいかないが、濃密で読み応え十分である。
漆黒の闇に蠢く巨大な獣の気配。圧倒的な力に剥き身で晒される恐怖。息を呑む描写は、小説を読む醍醐味を存分に味わわせる。


緻密に描き込まれた文章の行間には、一部の隙もないようでいて、さらに奥行きを感じさせる。綿密な取材に基づくのであろう重厚さは、読むものの想像力を刺激する。


巻末の倉本聡の解説も読ませる。北海道の田舎の地名は、奥に行くにつれ、一線、二線と順に数字を付けて名付けていくのだそうだ。被害にあった六線沢はなるほど奥地であったのだろう。倉本自身が地元民から聞き取った「羆嵐」のエピソードも、タイトルを補完して余りある。
本作と調和しつつさらに理解を深める一助となる優れた解説だと思う。


北海道入植の苦難を思う。またアイヌの生活はどんなものだったのだろう、とも思う。北海道に限らず、古今東西、知らぬ土地に進んで行った人たちの心許なさ・困難を想像してみる。


自然の脅威と人間の弱さを描いているようで、だが、簡単にはくじけない、最後にはしぶとくしたたかに生き残る人間を描いているとも読める。


*若い頃読んだ吉村昭(確か『ポーツマスの旗』)はいまひとつピンと来なかった。久しぶりに読んだらとってもおもしろい。ワタシも大人になったということか・・・? 年取るのも悪くない、と本を読んでいるとときどき思います。


*そして、テレビでこの獣害事件を知り、この本のことを知った翌日に、こちらで感想を拝見。さらに昨日また別の方の感想を拝見。この本には個人的にとっても縁を感じます。吉村昭、また読んでみよう♪
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. No Image
    マク太2011-09-30 10:10

    僕が手に取らないタイプの本ですが、とても興味をひかれました。
    今ある暮らしには当然ですが「開拓」の上に成り立っているのだな、と感じます。

  2. ぽんきち2011-09-30 13:14

    マク太さん
    コメントありがとうございます。
    「文明」の鎧を取り払って自然界に放り込まれたら、というようなことも想像させる本です。人は弱いようで強い、強いようで弱い、のかもしれません。

  3. プミ2011-09-30 20:18

    ぽんきちさん
    書評、読ませていただきました。おっしゃる通り、倉本聡さんの解説もとても素晴らしかったですね。ひとつの作品として成立している、と思いました。
    実は僕は、この事件がテレビで最近取り上げられたのを全く知りませんでした。
    たまたま重なったんです。びっくりしました。
    書評を書いたあとで知り、ああ、観たかったなあ……と。
    吉村昭、ちょっと集中的に読んでみようと思ってます。

  4. 風竜胆2011-10-02 21:23

    この事件、ちょっと前にテレビで放映しているのを見ました。なんとも悲惨な事件でしたが、野生のテリトリーに人間が入りこんでしまったことも大きな要因なんでしょうね。

  5. ぽんきち2011-10-02 21:40

    ふみよしさん

    私はテレビで見るまでこの事件を知らなかったのですが、いやー、こんな事件があったのかー、とため息が出ました。
    吉村昭、『三陸海岸大津波』が話題でしたね。こちらもそのうち読んでみたい。あと、脱獄囚の『破獄』もおもしろそうです。
    (コメントいただいていたのに気がつくのが遅れてすみません)

  6. ぽんきち2011-10-02 21:42

    風竜胆さん

    そうですね。何というか、未知の領域に入り込む、というのは非常な危険を伴いうることを思い出させる事件だと思います。

  7. プミ2011-10-02 21:54

    ぽんきちさん
    とんでもないです。で、僕は今、その『破獄』を読んでいます。

  8. ぽんきち2011-10-02 22:47

    ふみよしさん

    をを(^^)。感想をアップされるのを楽しみにしていますね。

  9. No Image

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